自己愛性人格障害の治療:偽りの記憶(フォールスメモリー)
自己愛性人格障害を含め、心理臨床での治療において、しばしば偽りの記憶(フォールスメモリー)が問題になることがあります。
面接を進めるにつれ、来談者がそれまで思い出すことのなかったさまざまな記録を取り戻すことがあります。
取り戻された記憶の中には、良い思い出もあれば、つらくて思い出したくない体験もあります。
この中で、幼いときに身近な人から受けた虐待などの経験に関する思い出が問題になります。
実際は虐待を受けていないのに、治療者との対話の中で、虐待を受けたと思い込み、偽りの記憶(フォールスメモリー)を形成することがあります。
もちろん、本当に虐待を受けている場合も多くあります。
心理療法において、偽りの記憶が引き出される原因は、治療場面において来談者の思い付きやイメージが重視されることや、長時間くり返し誤った記憶を引き出すエピソードに触れることなどにあると分析されています。
また、来談者は親を悪人(オールバッド)に見ることによって、来談者自身の怒りを正当化し、自分の問題を親にすり替えることができます。
自分の問題を直視せず、何でも親が悪いと考えてしまえば、悩みや苦しみを感じなくてすみます。
治療者が結束して親を糾弾してくれれば、来談者は安心して親に怒りをぶつけることができます。
こうした心の動きが、偽りの記憶を引き出していると考えられます。
人格障害の治療においては、こういったリスクを認識しておくことが大事です。