自己愛性人格障害の治療:同じ感情を引き起こそうとする
自己愛性人格障害の人は、治療者に対して、同じ感情を引き起こそうとするので注意が必要です。
身近な人に対する怒りを引き起こし、本人がその人達に向けている怒りを、治療者も感じるように話をします。
本人が自分に被害を与えていると思っている人のことを聞いているうちに、治療者自身がその他者に不快な感情を持つようになります。
治療者に自分と同じ感情を持たせるために、周囲の人を中傷する嘘を言う人もいます。
治療者は知らず知らずのうちに、来談者の感情の影響を受けて、来談者の身近な人達に対して来談者と同じ感情を持つようになります。
治療者は来談者の身近な人に関して、来談者の視点で歪められた多くの情報を受け取ります。
こういった情報は客観的には事実と合っていなくても、来談者本人にとっては自身の心理世界を反映した真実となります。
こうした真実を、心理臨床の専門用語で「心的現実」と呼びます。
来談者の心理を理解するためには、心的現実を丹念にききとり、そこに込められた感情に共感する必要があります。
しかし、来談者の心的現実に基づいて、治療者が他者の関係について助言してしまうと、来談者の関係の歪みを強めてしまいます。
特に、治療にとって重要な役割を果たす家族などに関する情報は、来談者の話だけに頼ることは望ましくありません。
また、来談者から助言を求められても、治療者は安易に助言せず、むしろ助言を求める来談者の気持ちに焦点を当てるころが望ましいです。